恨めしいほど美しくー「うらめしや~、冥土の土産」展ー |
今年の夏は特に暑かったですね。1日1本と決めていたはずのアイスの数が増えたり、夕方の風の涼しさに心癒されたりして何とかしのぐ事ができました。皆さんはいかがお過ごしでしたか?
今よりも気温が低く、どんなに暑い日でもせいぜい30℃位にしかならなかったといわれている江戸時代。30℃といえばクーラーなしでいると、じんわりと汗の染み出してくる温度。打ち水や簾といった住居に対するものや、「ひゃっこいっ、ひゃっこいっ」の掛け声ととも街中を歩く冷や水売り、夏バテ対策に好まれた甘酒売りなど、当時のひとたちも様々な工夫を凝らして夏を過ごしていたようです。
そのなかでひときわ目を引く夏の風物詩、特に今年はコレでしょう。

今まで幽霊画を見たことはあまりありませんでした。
なぜって?それはホラー映画とかが一切ダメな人だからですよ…
東京芸術大学美術館で開催中の[うらめしや~、冥土のみやげ展]は、明治時代に活躍した噺家三遊亭圓朝ゆかりの幽霊画を所有する、谷中の全生庵の協力のもとに開催された展覧会です。(三遊亭圓朝について詳しくはこちらへ)
東京芸大の地下展示室で行われた今回の展示。もう入口の時点で怖さ満点、何が出てもおかしくない雰囲気の充満する中へ行くと、鏑木清方と河鍋暁斎それぞれが描いた在りし日の圓朝像がお出迎え。特に親交が深かった清方の描いた姿は、今にも噺の続きを語りだしそうな程の生々しさがあります。
圓朝像が醸し出す生々しさとは対照的な幽霊画。一幅でも相当の存在感があるのに、壁一面となると圧巻です。ロープちょっと凝った作りをしていて、ところどころに榊を模した枝と紙垂(しで、ジグザグの白い紙のことです)が配置されています。これってもう…魔除けですよね?
この部屋に展示されている圓朝コレクションはすべてガラスケースなし、遮るものなく間近に作品を観賞することができるちょっとかわった取り組みをしています。もちろん足元にはしめ縄のごとく張られているロープによって一定の距離をとっているので、作品と直に接触することもありません。ちょっとの工夫で会場の雰囲気がより一層引き立てられています。作品を眺めているうちに、絵の中に引き込まれてしまった!ということには多分なりません。
今ではあまり見かけることもなくなった蚊帳もこの会場の雰囲気を作るのに一役買っています。蚊帳は会場中央に貼られていて、この下に休憩用の椅子が配置されていました。ここで腰かけてぼんやりと会場を眺めていた時、小さいころ祖母の家に泊まりに行ったとき蚊帳の内側から見る風景が、知っている部屋のはずなのにいつもと違う景色に見えたことをふと思い出しました。控えめな照明が作品を浮かび上がらせるなか、作品の前の不規則な人の流れはいつもと変わらないはず。なのにいつもと違う事を感じたのは、いつもの展覧会とはちょっと違う雰囲気がなせる技なのでしょうか。
腰から下が霞のように消えている霞のように儚い美人や、鬼気迫る表情の中に何かを伝えたげな目をした女性、わが子の顔を見ることなく亡くなってしまった母など、会場内の幽霊画のバリエーションを目にしていて思った事。男性の幽霊画って少ないんですね。歌舞伎を題に取った浮世絵や、ほんの一部ですが男性の姿を描いたものもあったにはあったのですが、八割以上は女性を題材にしたものでその差は明らか。やっぱり女性の方が念が強いというか…執念深いのですかね?橋姫しかり、皿屋敷しかり、化けて出るのって大体女性なんですよ。
身体が亡くなってのち本来であればあの世へ向かう道理を曲げてまで彼女たちがこの世にとどまりたがる理由。それは何かわからないし、もしかしたら彼女たちもそれを求めて彷徨っているのかもしれない。もしかしたら長い年月の間に忘れてしまったのかもしれない。生を手放しても存在する彼女たちを前に圓朝は何を考えていたのでしょうか。
「うらめしや~、冥途のみやげ」展
―全生庵・三遊亭圓朝 幽霊画コレクションを中心に―
http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2015/urameshiya/urameshiya_ja.htm
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お越しくださりありがとうございました。